不忍今昔:視覚資料から見る不忍弁天堂(1)消えた鳥居

不忍池周辺で歴史の中で変わりつつ、姿を消したものがいくつかある。以前不忍池競馬場に触れたが、今回の記事は、かつて弁天島にかけられていた弁天堂の鳥居と門の変遷に焦点を当て、視覚資料をてがかりとして紹介する。

まず、弁天島の成り立ちについて紹介する。不忍池の中之島ができたのは寛永年間(1624-44)。常陸下館(ひたち しもだて)藩主水谷勝隆(みずのや かつたか)(1597-1664)が幕府の朝廷政策や江戸の設計に深く関わっていた天海僧(?-1643)とはかり、不忍池を琵琶湖に、弁天島を琵琶湖の竹生島に見立てて不忍池に中島を築き、弁天様を祀る弁天堂を建てた(谷根千工房 1989, 6-7)。また、不忍池を中国の杭州の西湖に、中之島を西湖の湖心にある島にみたて作ったという説もある(原2015, 49-50)。谷根千工房出版の『しのばずの池事典』によると、当初は橋がなく、舟で参詣していた。17世紀半ばの寛文年間、石橋ができ参詣路となった。18世紀半ば、寛延年間には弁天堂の後ろに四つ折りとなっている四つ橋が架けられ、水に映じて八つに見えたので「八つ橋」として上野の名物となった(『東京市史稿』 1936, 300)。島に最初の茶屋ができたのもこの頃だった。

弁天堂ができてから、信仰の地として弁天島は上野の名所となっていった。弁天堂の本尊は八臂大弁財天長寿福徳の神、脇士は多聞天と大黒天である。弁財天は土地豊饒、福、音楽、弁舌の女神として、江戸時代から庶民や芸の上達を願う芸者に親しまれ、多くの人々が訪れた。江戸東京博物館所蔵の資料からこの様子を確認できる。橋本周延が描いた「見立十二支 巳 不忍弁財天」(明治26年・1893)(Fig. 1)では、不忍弁財天と芸能との関連が反映されている。歌川国安作の「不忍辨財天之図」(文化8年-11年頃・1811-1814)(Fig. 2)では、たくさんのお参りに来ている人で賑わっている様子も描かれている。

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Fig. 1 「見立十二支 巳 不忍弁財天」,橋本周延,明治26年 (1893年)。江戸東京博物館収蔵。 http://digitalmuseum.rekibun.or.jp/edohaku/app/collection/detail?id=0186200909

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Fig. 2 浮絵「不忍辨財天之図」,歌川国安,文化8年-11年頃(1811-1814)。江戸東京博物館収蔵。 http://digitalmuseum.rekibun.or.jp/edohaku/app/collection/detail?id=0196201747

弁天島への参道上に弁天堂の正面を強調する鳥居があった。弁天堂の東側の島と岸の境に、最初に木造の鳥居が建てられ、後に唐銅造りとなり、享保9年(1724)細井広沢の筆になる「天龍山」の額が揭げられた。その額は歌川国安作の「不忍辨財天之図」(Fig.2)からも確認できる。明治初年の廃仏棄釈運動により神仏分離が行われ、鳥居があった弁天堂は寛永寺から分離されそうになった。そこで、寛永寺は弁財天が仏であると主張し、鳥居を撤去しただけで済んだ (森 1989, 10)。かつて東京にあった北ドイツ連合国駐日公使館で勤務していたスティルフリードが1890年代に撮った写真(Fig. 3)では、弁天島の入口あたりから鳥居がなくなっている様子が写っている。

Fig. 3 不忍池弁天堂, 1890年代, スティルフリードBaron Raimund Stillfried-Ratenicz 撮影, 日本カメラ博物館所蔵。谷根千工房, 『上野の杜事典:上野のお山を読む』, 2006, 表紙。

Fig. 3 不忍池弁天堂, 1890年代, スティルフリードBaron Raimund Stillfried-Ratenicz 撮影, 日本カメラ博物館所蔵。谷根千工房, 『上野の杜事典:上野のお山を読む』, 2006, 表紙。

大正時代に入って、鳥居よりもっと弁天堂の近くの参道の中に、伊東忠太の設計による不忍弁天堂天龍門が建てられる。次の記事はこの天龍門を中心として紹介する。

 

参考文献

谷根千工房,『しのばずの池事典』,1989.

森まゆみ, 「弁天堂と巳成金」, 『しのばずの池事典』,1989, p. 10.

原祐一, 「不忍池(小西湖)を中心に展開した西湖風景と大名庭園」, 平成27年度日本造園学会関東支部大会梗概集/事例・研究報告集,    33,     2015, pp. 49-50.

東京市編, 「池端築地」, 『東京市史稿』遊園篇第2, 1936, pp. 298-302.

作成者  | 2016-04-11 (月)
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